@hikaruwakaura 2019.01.17更新 927views

【量子化学】制限付きVQE法(2/2)

VQE 励起状態 量子ゲート 量子コンピュータ 量子化学

概要


前回は束縛条件付きVQE法の概要を述べ、水素分子の基底状態がその方法で精度良く求まることを示した。今回はVariational Quantum Deflation法とUnitary Coupled Cluster法をそこに組み合わせて励起状態の中でもスピン対称性を持つ物の計算方法とその結果について述べる。

Unitary Coupled Cluster(UCC)法


励起状態の計算をするうえで、基底状態と励起状態の間の重ね合わせを作る演算子が必要になる。その演算子を作ることで、任意の励起状態の計算を可能にするのがこのUCC法である[1]。前回はハミルトニアンでVQE法を行っていたが、この方法は$\sigma^x$も$\sigma^y$もかからないビットが存在するため、一部の励起状態が計算できないといった欠点を抱えている。そこでこのUCC法を用いて励起状態を求める。まず、クラスター演算子、

$T=\sum_{j\in ground, a\in virtual}t_{j}^{a}c_a^\dagger c_j$

$ + \sum_{j, k \in ground, a, b \in virtual}t_{jk}^{ab}c_a^\dagger c_b^\dagger c_j c_k + \cdots -(1)$

を定義する。ここで$t_{j}^{a},t_{kj}^{ab}$はそれぞれ一電子、二電子励起を起こす演算子の係数である。実際の計算では簡単のため二次の励起までを考え、基底状態に$exp(T-T^\dagger)$を掛けて前回と同じVQE法によって計算を行う。

Variational Quantum Deflation(VQD)法


励起状態を計算する方法として、Variational Quantum Deflation(VQD)法が知られている[2]。これは量子状態が直交することを利用してもとまった状態基底を利用して、それらと直交する状態を求めることで励起状態とそのエネルギーを探す方法である。具体的には、ハミルトニアンにすでに求めた状態で張った完全系を足して、それを波動関数で挟んだエネルギーを最適化関数とする。その式は、

$E_{ex}=\langle \Psi_{ex} \mid H \mid \Psi_{ex} \rangle + \sum_{j < ex}\mid \langle \Psi_j \mid \Psi_{ex} \rangle \mid^2 -(2)$

となる。第二項はオーバーラップと呼ばれ、求める励起状態とすでに求めた基底との重なりを示す。直交している場合に0になる。これら2つの方法を用いて、励起状態を計算する。

結果


ここからは結果を説明する。今回求める励起状態は、スピン絶対値$S^2=2$、$M_s=0$の三重項状態におけるエネルギーである。ここで、$S^2$、$M_s$はそれぞれ、

$S^2\mid \Psi \rangle = S(S+1)\mid \Psi \rangle -(3)$

$M_s\mid \Psi \rangle = \sum_{j=0}s_z\mid \Psi \rangle -(4)$

である。この状態は三重項状態の中では最もエネルギーが低く、その表記は、

$\mid \Psi_{triplet, M_s = 0} \rangle = 1/\sqrt 2(\mid 1 \bar 2 \rangle – \mid 2 \bar 1 \rangle) -(5)$

となっている。ここで数値は電子の軌道を、上線はスピンが下であることを、表す。そのエネルギー計算結果はFig. 1のようになる。$r=1.0(Angstrom)$以上になると値がふらつき、基底状態に近づくはずが近づかないのであるが、これはVQD法が縮退に弱く、ほかのエネルギー準位に近づくと計算精度が落ちるためだと思われる。

Fig. 1 励起状態エネルギーの計算結果。青線は厳密解を表す。赤い点線はトリプレット状態の三次元スプライン補完であるが、計算精度は悪く、0.2hartree以上ずれているところもある。

まとめ


こうして、束縛条件付きVQE法を用いて励起状態を2回にわたって計算してきたが、論文も私の結果も精度が悪くてまだまだ実用には堪えない。より精度の高い励起状態計算法が求められる。しかしながら、回路の深度を上げる方法では計算時間が増大する。計算時間を項数に対してあまり増やさず、変数を少なく済ませられる精度の良い計算方法は、今後も模索していく。この論文ぐらいの精度を目指したい[2]。このテーマに関連する新たな論文が見つかり次第、このブログで報告する。

追記


その後、SWAP-testを実装し、VQD項の値を工夫し、励起状態の計算精度を改善した結果を示す。精度良く求まる値は少なくなったものの、全体として求まる値の精度は上がった。


Fig. 2 励起状態エネルギーの計算結果。青線は厳密解を表す。大きくずれる値はFig. 1と比較すると少なくなった。