@yuichirominato 2019.01.07更新 185views

【自動車】量子コンピュータ時代に自動車メーカーはどのように対応すれば良いか?

自動車 量子アニーリング 量子ゲート 量子化学

はじめに

最近はお仕事で自動車関連の企業とのやりとりがとても多いです。これまで私たちが量子コンピュータで触れてきた業界と自動車業界はまた違う慣習を持っているなという印象を持ちました。そのような本当の分野横断の機会に世界中の自動車メーカーと量子コンピュータメーカーとの関わり合いかたを通じて、自動車関連企業の方々がどのように量子コンピュータに対して向かい合えば良いのかを考察して提案してみたいと思います。

世界中の大手企業が量子コンピュータの調査研究を始めている

量子コンピュータの分野ではこれまで金融機関などが研究開発の主体でした、最近では材料計算も盛り上がってきていることもあり、また交通最適化や自動運転技術と合わせて量子コンピュータの活用を目指している企業が増えています。弊社クライアントにも多種な自動車関連企業がおり、盛り上がりを感じます。

実際には、量子コンピュータに対して自動車業界の関わりは金融機関とは異なった視点となっている上、多彩が技術がベースとなっており、多くの技術を身につける必要があります。そのような技術ベースでどの量子コンピュータを採用すればいいのか、世界の企業がどのような戦略をとっているのかを確認したいと思います。

まず最も量子コンピュータの業界で技術が進んでいるのは、ドイツのVW(フォルクスワーゲン)社です。VW社の取り組みを有名なものとしたのは、中国の北京で市内から空港までの交通最適化をD-Waveマシンを使って行った実験で、この論文が社会問題への採用でとても有名になりました。

参考:

http://www.thedrive.com/tech/8789/volkswagen-uses-quantum-computing-to-fight-beijing-traffic

https://www.dwavesys.com/sites/default/files/VW.pdf

https://www.volkswagenag.com/en/news/stories/2018/06/avoiding-traffic-jams-and-surviving-tsunamis.html#

VW社の特徴はD-Waveをつかった量子アニーリングとGoogleと組んで量子ゲートマシンの両方を活用していることです。これらの両方のマシンの活用アプローチはそれぞれ異なっていますので、のちほど確認したいと思います。

国内でも自動車関連は海外にも劣らず進んでおり、DENSO+豊田通商で量子アニーリングマシンをつ活用した取り組みやDENSOさんによる工場内の最適化などが取り上げられています。こちらは量子アニーリングの戦略をとっています。

https://response.jp/article/2018/05/30/310289.html

https://wired.jp/2018/12/20/denso-quantum-annealing-ws/

海外ではダイムラーがグーグルと組んでおり、FordがNASAの量子アニーリング(D-Waveマシン)で開発を行っています。

このように自動車メーカーは組み先を変えており、それによってとる戦略も違うところがとても興味深いです。ちなみに取り組みとしてはやはり開始が早かったVW社とDENSO社が技術的には先行しているイメージがあります。

方式の違いに見る戦略の違い

量子コンピュータの業界では選ぶマシンによってできることが異なるため、その選ぶマシンの種類によってできることが事前にわかります。

方式には汎用量子コンピュータと量子アニーラがあり、前者はGoogleやIBMが取り組んでおり、後者はカナダのD-Wave社と類似技術を日本の富士通が提供しています。

簡単にまとめると、VW社はGoogle社の汎用マシンとD-Wave社の量子アニーラ両方を使っている。DENSO社とFord社は量子アニーラ。ダイムラーは汎用マシンです。

一般的に汎用マシンは計算できる種類が広い一方で実用化はまだ先と考えられており、問題サイズも10量子ビット程度の問題になっている一方、量子アニーラは2000量子ビット程度となっていて簡単な社会問題は解けるというレベルになっています。また、それぞれ得意な問題も異なるので、それを理解して技術取得をする必要があります。

汎用量子コンピュータでできること

汎用型量子コンピュータに自動車業界が期待することは明確で、量子化学計算を利用した将来的な材料計算です。GoogleのOpenFermionなどをつかって、分子構造の基底状態を量子コンピュータで計算できるように変換できます。そのため、量子コンピュータで計算することが望まれている計算がとても明確です。

VW社も将来的な高性能バッテリー開発に役立てたいと明言しています。

Volkswagen tests quantum computing in battery research

https://www.volkswagenag.com/en/media/volkswagen-group-media-services/2018/06/Quantencomputing.html

ただ、現在の汎用機で実質的に計算できるのは水素分子を含むとても小さな系であって、実用的には大きな系は計算ができません。さらには量子古典ハイブリッド計算と呼ばれる既存計算機を挟む計算が主になっているため、原理的に量子コンピュータと同様のスケールアウトできる構造になっているかどうかが不明ですので、基礎研究と位置づけるのがいいと思います。

現在実機で動いているのが10-20量子ビットが主流かつ、エラーが多く実機の取り扱いはとても困難なため、汎用量子コンピュータの研究開発はとてもチャレンジングではあると思います。それでも研究開発を進めるというのはそれなりに意味のあることなのかもしれません。

量子アニーラでできること

D-Wave社の提供する量子アニーラは部分的に量子効果を活用し、組合せ最適化問題を解くマシンとなっていて、2015年にGoogleとNASAが発表した論文が話題となりました。

ただ、この論文はかなりベンチマーク的な問題を取り上げており、実際の社会問題が本当に早くなるというわけではありません。実際まだ量子アニーラが高速性を発揮できるのかというのもわかっていませんのでこちらも実質的には基礎研究に分類されるのではないでしょうか。

ただ、量子アニーラはそこそこ実際の問題を解けるため量子アニーラを活用して、どのような問題を社会問題に適用できるのかを確認するのはとても大事です。その点VW社の量子アニーリングに対する知見や研究開発はかなり抜きに出てる印象があります。

量子アニーラの活用方法

量子アニーラは物理学のイジングモデルとよばれる格子モデルに問題をマッピングします。アプリケーションはこの格子モデルの上に数学的なQUBOと呼ばれるバイナリの値を取り扱う仕組みが乗っかっており、QUBOを作ることで計算ができます。自動車関連で組合せ最適化問題をマッピングしたい場合にはこのQUBOを学んで数式を作る必要があります。

計算は超電導量子ビットの素子を利用して、量子アニーリングと呼ばれる磁場を使ったアニーリング方式で、ハードウェアの機能としてこのアルゴリズムが動く専用マシンとなっています。簡単に仕組みを以前まとめました。

また、成果報告ですが、弊社MDR社ではこの量子アニーリングの超電導量子ビットの開発を行いまして、先日報告させていただきました。

自分のときたい問題をQUBOの形に直したらあとは勝手にマシンが動いて計算してくれます。2000量子ビットのマシンでD-Wave社のマシンはだいたい計算時間が20μsなので一瞬で計算が終わります。

クラウド経由で計算を利用

クラウド経由で計算を利用します。全世界量子コンピュータは基本的には外部環境の影響を受けやすいので、実験室を出ず、クラウド経由で実験室に置いたまま計算を行います。

本来は処理するデータ量が多ければクラウド経由での活用は難しいところですが、現在のマシンはまだ規模が小さいためデータの送付はそこまで問題になりません。

D-Wave社はすでにクラウド経由で活用できますので、アカウントを作るなど契約を行なって活用できます。月間で数十万円程度です。

スペック上注視すべき事項

量子アニーラでは、主に2つのポイントを重視します。1つは結合数と結合方式、2つ目は量子ビット数です。

D-Wave社は結合にキメラグラフと呼ばれる方式を採用しており、2000量子ビットに対して最大で約12000の結合を持ちます。超電導量子ビットの制限でこの結合方式は配線の制限で簡単には増やすことができませんので、この辺りの技術動向を確認する必要があります。

それに合わせて量子ビット数が増えるとより大きな問題が解けるようになります。

交通問題は超電導量子ビットと相性がいい

問題を量子コンピュータや量子アニーラで計算を行う場合に問題になるのが接続性です。接続性を考慮しないで問題を解こうとすると余計な量子ビットを消費してしまい、最悪2000量子ビット程度あるD-Waveマシンでも60量子ビット程度の問題しか解けなくなってしまいます。

この接続性を考慮すると、超電導量子ビットのように近隣の接続が制限されているマシンでは、道路のネットワーク構造に近く、遠方の量子ビットとの相互作用がそこまで必要でないため、親和性がとても高いです。

実際、現在量子アニーラで実行されている問題ではこの近隣の接続の問題を考慮したものがとても多いです。空間的、時間的に連続であるということは超電導量子ビットの量子コンピュータと量子アニーラ両方にとって有利な問題になります。

大規模社会問題の問題分割手法

D-Wave社は2000量子ビット以上の大規模問題に対して既存計算機と量子コンピュータのハイブリッドを活用することで対応しています。

実際にVW社の北京の交通最適化では、このqbsolvが活用されました。こちらはタブーサーチと呼ばれる最適化計算のハイブリッドで計算が行われています。

こちらはQUBOをタブーサーチで実行ということで結構面白いアルゴリズムなので、少し解くのに時間はかかりますが、興味がある人はチャレンジしてみてください。実際、北京の交通最適化は巡回セールスマンに近い形で問題を解きながら、D-Waveの接続数を考慮したとてもいい問題です。

VW社の量子アニーラでの量子化学計算

qbsolvでの大規模社会問題の分割という大きな仕事をしたVW社は色々な分野で話題をとっていきます。

Electronic Structure Calculations and the Ising Hamiltonian
https://arxiv.org/pdf/1706.00271.pdf

実際に中身を見てみると、D-Wave社のマシンでは量子化学計算は向いてなさそうだなと感じるのですが、それでも量子コンピュータの世界に新しい知見を与えました。

実際にはD-Wave社のマシンの量子アニーリングは実質的には古典マシンの問題を解いているので、量子計算そのものをしていないのですが、D-Waveマシンのイジングの形に無理やり量子化学計算を当てはめるとこうなるというのがよくわかって面白いです。実際にこの計算を実行した研究者の方はとてもすごいと感じました。

VW社の量子アニーラでのフォルムデザイン

次の注目研究が量子アニーラを使ったフォルムデザインです。ドアミラーの風による音圧の設計のようで、これはとても興味深いです。詳細はあまりありませんが、下の資料にちょっと記載があります。自動車の重量最適化にも研究開発しているようです。

VW社の機械学習、深層学習

強化学習や深層学習、機械学習なども大変大事ですが、この辺りも下の資料で見れる通りきちんとカバーしています。正直量子アニーリングだけでこれだけ広範囲の分野をカバーしている企業は他に見当たらないので驚異的です。

資料

D-Wave社の北米カンファレンスの資料が上がっています。ここから最新の動向が取れます。VW社も最新情報を惜しみなく出しています。

https://www.dwavesys.com/qubits-north-america-2018

https://www.dwavesys.com/sites/default/files/33_Thurs_AM_Neukhart.pdf

結局どうすればいいのか

ざっくり量子コンピュータの活用事例をみてみましたが、正直現在はVW社が抜きに出ていると思います。量子アニーラを活用した各種の最適化、大規模問題、最適化問題、機械学習と考えうるあらゆる分野で圧倒的な成果を出しています。

しかしこれらは接続数を考慮した量子アニーラでの成果であるのと、技術力はすごいですが、これでも実際に使えるアプリケーションはほとんどありません。

個人へのMaas関連のアプリケーションを発表する予定?となっているくらいでようやく実用化が見えてきた感じになっています。

量子アニーラはハードウェアが発展しないと実用化は厳しい上、現在量子アニーリングを提供しているのはカナダのD-Wave社のみなので、D-Wave社のリリースを待つしかありません。

現状では、量子アニーリングを使いたい場合にはD-Wave社の動向を注視する必要があるでしょう。

一方VW社はGoogleマシンも活用しています。下記の表にある通り、Googleは限られたソフトウェアメーカーやパートナーにだけマシンの提供をしています。

https://quantumcomputingreport.com/scorecards/software-partners/

今後VW社は量子化学分野もしくは機械学習分野でもゲートマシンを使いこなしてくる可能性があります。

自動車関係者で量子コンピュータをきちんと使いこなしたい方は、量子アニーラ、量子ゲート両方を用途に合わせて使いこなしながらコンパクトに高い成果を外部の企業や研究者や研究機関と一緒に進めていくのがいいのではないでしょうか。

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